趣意書

最近、学問の諸分野において、一つの専門領域に固定することなく、たがいに協力して共通の問題に取組み、研究の展開と問題の解決に努める、いわゆる学際的傾向が顕著であることは、あらためて指摘するまでもない。また、われわれがとりわけ明治以後急速に摂取し不可欠の学問的支柱としてきたヨーロッパ的諸学問ならびにその思考方法が、ヨーロッパ自体においても問いただされ、大きな転換点に立っていることも、すでに周知の事実となっている。

このような状況において、われわれ学問の研究に従事し真理の追求にたずさわっている者は、ひろく視野を拡大して、手をたずさえて大胆に研究を推進するとともに、謙虚に自己自身の立っている思想的地盤について反省する必要に迫られているといえる。

ところで、比較思想という研究領域は、このような意味において、現代において無視することのできない重要な意義を有する。それは既成の学問分野に固定することなく、ひろく自由に研究課題を設定し、諸種の方法を駆使して、とりわけ
東西両思想の比較考察をおこない、他を顧みることにおいて自己自身の真の把握に志すものであるということができるからである。比較思想の世界思想史的意義は現代においてまことに大なるものがある。

わが国において比較思想――比較哲学・比較文化・比較文学等々――にたいして関心を有し、そのような研究に志す研究者の数は次第に増加し、すでに着実な成果も公にされている。しかしながら、従来は、ややもすれば各々相互の連絡もなく、散発的に研究をおこなっているのが実状であったことは、否定できない事実である。現代における比較思想の有する意義と必要性にかんがみ、われわれは各研究者が相互の連繋を緊密にたもち、たがいに意見を交換する共通の広場をもつことが、緊要であることを痛感する。このような理解のもとに、われわれはここに、比較思想学会を設立し、同学の士の参加をもとめ、ともに手をたずさえて研究をすすめ、真理の追求にむかっていくことを提唱したい。ここに披瀝したわれわれのささやかな、しかし意義深い主張にたいして、好意ある理解をよせられ、多くの方々が本会に協力と支援をあたえられんことを、切に望む次第である。

昭和四十九年一月十日

比較思想学会設立発起人一同